翌朝6時頃、またペンションの屋上に出た。昇ったばかりの朝日に輝く、ヒマラヤの稜線がひときわ美しかった。最高峰は7,400m以上にも達する、ガネシュ・ヒマールの連山だ。ふと気づくと、向かいの建物の屋上で女性がひとり、あっちを向いたり、こっちを向いたりしておじぎをしている。隅に小さなストゥーバ(仏塔)が立っていたから、きっと朝の祈りをしていたのだろう。ここパタンは、カトマンドゥ盆地の先住民とされるネワール人が多く、住民の8割は仏教徒だというが、信仰心のあつさをかいま見る思いだった。
その日、10月27日は、パタンとカトマンドゥの観光だった。ネパールの中部丘陵地帯にあるカトマンドゥ盆地は、カトマンドゥ、パタン、バグタブルの町から成る。これらは、マッラ王朝期の15世紀に3人の王子が造った3王国の都だ。現在も16〜18世紀の王宮や寺院が残され、盆地全体が世界文化遺産に登録されている。
パタンはその中で最も古く、別名は「ラリトプル(美しい町)」。まさにそうで、ダルバール広場(王宮広場)の王宮や、これを囲む寺院の彫刻、金銀細工の装飾は素晴らしく、いたるところで見事なネワール彫刻を見ることができた。
町歩きの後、車で10分ほどの首都カトマンドゥへ。始めに、西の丘に立つスワヤンブナートを訪れた。2000年もの歴史がある「目玉寺」だ。南アジア最大という白いストゥーバは金の冠を頂き、その下で四方についた仏陀の知恵の目がにらんでいる。この世のすべてを見通すというのだが、どことなくユーモラスだ。ここからはカトマンドゥ盆地が見渡せ、遠くに目をやると、そこにもやはりヒマラヤ連山があった。
市内はパタンとは対照的に、にぎやかすぎるほど活気に溢れていた。ここでも中心は、ダルバール広場だ。1本の大木で建てられたというネパール最古の建築、カスタマンダブ寺院をはじめ、20数棟の寺院がひしめくように並んでいる。一角には、「カーラ・バイラブ」という石像。破壊神としてのシヴァ神の化身で、この前で嘘をつくと死ぬという言い伝えがある。
観光客がいちばん多く集まっていたのは、「クマリの館」の前だ。クマリは、ネパールの守護神、タレジュ女神が宿るという生神様の名前だ。32の条件を満たし、水牛の生首を見ても怖がらない強い心をもつ女の子がクマリに選ばれ、ここに住んでいる。ご機嫌がいいときは、孔雀窓から顔を覗かせることもあるというが、残念ながら、この日、女神はお出ましにならなかった。
磯矢 健一
1931年東京生まれ。横浜国立大学建築学科卒。
97年に会社をリタイア後、チベット、ウィーン、スイス等に撮影旅行をしパソコンで写真の整理、プリント等を楽しんでいる。




