ラサでの2日目も、寺や市場を見て回った。圧巻だったのは、旧市街区にあるジョカン寺(大昭寺)だ。7世紀に建てられたチベット仏教の総本山で、チベット以外の各地からも巡礼者が訪れ、全身を地面に投げ出しての「五体投地礼」を繰り返している。聞いてはいたが実際に目の当たりにすると、その迫力たるや、伝える言葉が見つからない。もうもうとたかれる香と、灯明に使われるヤクの乳のバターが燃える匂いで、辺りはむせ返るようだった。
ラサ市街から北に5キロほど行った山麓にある、セラ寺(色拉寺)も興味深かった。赤い衣をまとった大勢の修行僧たちが中庭で、少々オーバーとも思える身振りで議論をしている。1419年に建てられた学問寺で、僧たちのやりとりは、修業の一環の「問答」だ。日本からも、明治時代には河口慧海が、大正時代には多田等観がチベットに入り、この寺で学んでいる。チベットが鎖国政策をとっていた時代、ふたりは日本人であることを隠して修行したそうだ。
サは年間の日照時間が長く、日差しも強いために、「太陽の都」とも呼ばれる。それを証明するような面白いものを、街中で見かけた。太陽熱利用の調理器だ。パラボラアンテナのように太陽に向かって広げられたアルミ板で熱を受け、その上にヤカンや鍋を据える。これならガスも電気もいらず、手軽に持ち運ぶこともできる。なるほどと、いたく感心したことだったが、帰国後に調べると、日本でもつくっているメーカーがあった。最近は、「ソーラークッカー」として世界中で注目され、とくに途上国などで活躍しているようだ。
10月31日。いよいよ山岳ドライブに出発の日だ。朝食を終えて外に出ると、昨夜のレストランで民族舞踊を披露してくれた踊り手たちがいた。同じホテルに泊まっていたのだ。彼らを見送り、さて我々もと、車に目をやって驚いた。トヨタのランドクルーザーが4台用意されていたが、これが相当なポンコツ車。これから1,000キロを超える長旅になるというのに、大丈夫なのだろうか。いささか不安になる。もっと驚いたのは、車の屋根にガソリンが積まれたことだ。途中にガソリンスタンドなどないので、やむをえないのだという。道はもちろん、舗装などされていないガタガタ道だ。こぼれでもしたら大変なことになるではないか。高山病よりそっちのほうがよほど心配になった。
ミネラルウォーターを大量に買い込んで、とりあえずひとり1本ずつ配給。水分補給は大切だが、飲みすぎてもだめなので、配給係を決めた。その他、救急係など全員で役割を分担して、最年長(当時72〜73歳)の女性を団長に立て、ともかくも出発したのだった。
磯矢 健一
1931年東京生まれ。横浜国立大学建築学科卒。
97年に会社をリタイア後、チベット、ウィーン、スイス等に撮影旅行をしパソコンで写真の整理、プリント等を楽しんでいる。




