今回は小田急線読売ランド前駅に下車。晴天の日が続くおさんぽ日和の季節に、
絶景を期待して多摩美方面へ。なかなか思ったようにはならないものですが……。
澄みきった青空が気持ちいい季節。眺望もクリアで、おさんぽにはベストシーズン! と、はりきって小田急線読売ランド前駅(1)から出発。ところが、改札を出て天を仰ぐと、あろうことか白い雲が広がり始めています。雲がこれ以上増えないよう祈りながら、よみうりランド駅前通りへ。スーパー、飲食店、青果店、書店、美容室、銀行などが並び、人々やクルマがあわただしく行き交っています。
線路に沿って歩いて耳に飛び込んできたのは、小田急線の走行音。キンキンとした金属音が去って、やっと街に静けさが広がります。頭上から今度は踏切音が降ってきたとき、その足下に歩行者しか通れない細い道(2)を発見。学校帰りの寄り道で味わったようなわくわく感を抱えて進み、となりを追い抜いていく電車とは別世界にいる気分になります。
左手にお墓が見えてきました。そのうち墓地は竹林に変わり、法性寺への階段が現れます。線路と津久井道を跨ぐ高石歩道橋の階段を上り、橋の上から周囲をぐるりと一望。と、津久井道の歩道に石柱を見つけます。階段を下りて見れば、柱の正面に「南無妙法蓮華経」と彫られ、線路向こうにあった法性寺(3)のものであることがわかりました。
歩道橋の上へ戻り、もう一度ぐるり。高いところから見渡していると、ふだん歩いているときは気がつかないものに気づくことがあります。どこから現れ、どこへ流れているのかわからない線路沿いの川。法性寺の石柱と対角にあるガソリンスタンドの隅には細王舎創業之碑(4)の石碑が立っています。
ここには明治22年創業の細王舎の工場が建てられていました。農蚕機具の発明と製作をしていた会社で、「ミノル式足踏み脱穀機」は全国にその名を知られたそうです。「細王舎」の社名は、創業者の夫婦の出身地である細山と王禅寺の頭文字を合わせたものでした。
高石歩道橋下交差点をよみうりランド方面へ行くと、「史跡 二枚橋(5)」と書かれた立て看板。五反田川の支流に架かるこの橋には「源義経と弁慶が通りかかったとき、今にも崩れ落ちそうな丸太が架かっているのを見て、弁慶が新しい丸太を並べて馬も通れる橋を完成させた」という言い伝えが残されています。第11回 百合ヶ丘駅〜王禅寺見晴らし公園を歩こう!で、弁慶の馬の鞍から鍋がころがっていったと伝承される地「鍋ころがし」を訪れましたが、ここでまた義経と弁慶のゆかりの地と出会えるとはおもしろいものです。
左手にダムをもつ細山調整池を眺めてから、道路を横断。宅地開発された際、富士山が美しく見えることから「富士見町」と命名され、その後、富士見町はほかにもたくさん存在するので、多摩川と富士山が見えることで「多摩美(たまみ)」と名づけられた丘の上の住宅街へ向かいます。
上った階段は94段。ひぃひぃと肩で息をしていると、後ろから白髪の女性がすっすと階段を上がってきました。「もう慣れていますから。この街に住むには日頃から運動していないとね」とにっこり。「ここから左へ行くと、家が途切れている場所があって、そこから天気がいい日は富士山が見えますよ。でも、今日はどうかしら?」。
読売ランド前駅で見た雲。うっすらと空を覆い、多摩美(6)から高石・細山方面を望んだ風景には、あぁ、残念、富士山の姿をはっきりと確認できません。「五重塔の左側に見えるはずなんだけどね」「昨日、一昨日はきれいに見えていたんだけどなぁ」と、買い物帰りや散歩の人々が教えてくれます。
多摩美の街を少し歩くと、すぐに丘の反対斜面。ぐんぐんと下りて合流した遊歩道に「手打ちそば 櫟(7)」の暖簾を下げた一軒家。店内は木の温もりたっぷりで、窓ごしに緑が眺められます。おそばのランチをゆっくりと楽しみ、富士山の絶景見られずの残念会は終了。第22回 百合ヶ丘駅〜高石〜細山を歩こう!で高石神社からの景色がすばらしかったことを思い出し、のんびりと行ってみることに決定。
遊歩道を奥まで進んで多摩美公園から再び住宅街へ入り、西生田小前交差点を跨ぐ歩道橋へ。西生田小、西生田中の横を通って、坂をよっこらよっこらと上っていきます。高石神社(8)の境内に着いたとき、富士山はますます雲の中。そのかわり、西の太陽が雲の狭間を赤く染めて山並みをぼんやりと浮かび上がらせ、また別の絶景を見せてくれたのでありました。
「手打ちそば 櫟(くぬぎ)」
群馬県嬬恋産と福島県会津産のそば粉を石臼で挽いて自家製粉し、手打ちしたせいろそばと田舎そば。
写真は「野菜の天ぷらlunch」1300円。せいろそばとさつまいも、かぼちゃ、しいたけ、なす、春菊、かぶの天ぷら、デザートのキャラメルムース、コーヒー付き(平日はコーヒーがサービス!)。
せいろそばは食感がよく、喉の奥へするりするりと踊るようにおさまっていきます。身体にやさしい醤油や砂糖、塩にこだわって作ったつゆは、とくにそば湯でいただいたときにかつお節とさば節の風味が口の中に広がり、そばの楽しみを最後まで存分に味わわせてくれます。
また、デザートも手作りで、杏仁豆腐、黒ゴマのゼリー、抹茶のムース、わらび餅などを日替わりで提供。キャラメルムースのとろける味わいはシアワセとしか言いようがありませんでした。
田舎そばは食感も味わいもまったく違うとのこと。次の機会にはぜひ試してみたいです。
■ 044-969-5442
■ 川崎市麻生区多摩美2-21-2
■ 11時半〜14時半、17時〜20時(おそばがなくなり次第終了)
■ 火・水曜休
取材・文/森田奈央
森田奈央
日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。



