第2回 駅前ビル編
フジサワ名店ビル/ダイヤモンドビル/ザ・プライム(神奈川県藤沢市)
神奈川県藤沢市南藤沢2-1-1
営業時間:10時~20時
藤沢駅前の秘境の地
藤沢駅前のおしゃれな駅ビルを抜けると、昭和時代を忍ばせる不思議なビルがある。一歩足を踏み入れると、駅前の新しいビル群とは明らかにチューニングが合っていない感じの独特な光景が広がる。“藤沢駅前の秘境”とも呼ばれるその建物が「フジサワ名店ビル」だ。
1965(昭和40)年に創業し、今年60周年を迎える同ビルは、昭和の名残を残す個性豊かな商店が多く、さながらビルの中に商店街や市場が丸ごと入っているような雰囲気だ。一見、有隣堂が大半を占めるビルにも思えるが、よく見るとペットフードと傘が一緒に売られているような何屋かよく分からない店も多く、さらにビル内は迷路のようなつくりになっており、時折自分の現在地さえも分からなくなる。そんな雑居濃度の高いカオスな空間は昭和の時代の象徴のようでもあり、知れば知るほど沼にハマってしまう魅力がある。
残念ながらこのフジサワ名店ビルは、老朽化により2027年に営業終了し、その後建て替えの予定だそう。今、ここでしか見ることのできない貴重な昭和遺産だ。
名店ビルの摩訶不思議?
1. なぜか昇りしかない?エスカレーター
エスカレーターで上には昇れるのに、下には降りられない。この不思議なつくりには理由があり、開業当時、銀座のビルを模倣してまずはエスカレーターで上階まで昇り、階段で降りながら各フロアをゆっくり回遊してもらう意図があったそう。
2. 3つのビルがつながっている?
フジサワ名店ビルの開業後、ダイヤモンドビル、ザ・プライムと順次ビルが竣工。3つのビルは地下1階と2階より上はすべて壁を抜いてフロアがつながっているため、歩いていると今自分がどのビルの何階にいるのか分からなくなり、訪れた人をもれなく迷宮入りさせる。
3. ビル内の隠れ家スポット?中2階
昔は吹き抜けになっていた空間を増床してつくられた中2階は、3つのビル内で独立しており、互いに行き来することはできない隠れ家的な空間となっている。それぞれのビルの中2階にどう行けばたどり着けるか、ぜひチャレンジを。
4. 見られたらレア!?ハゼの木広場のテレビ
3つのビルの中庭にある「ハゼの木広場」には、大きな百葉箱のような謎の物体がある。実はこれ、街頭テレビ。1日2回、昼と夕方になると突然箱が開き、テレビ放映が始まる。街頭テレビを囲んで人が集まる光景も、昭和の置き土産のようだ。
屋上観覧車の名残を発見!
昭和30~40年代を中心に、子どもたちの憧れの場だったデパートの屋上遊園地。かつては名店ビルの屋上にも、観覧車があったそう。わずか7年ほどで撤去されてしまったが、今でも屋上に観覧車の台座が残っており、2階の入口には当時の模型が飾られている。
まるで市場のような食品街
地下1階の食品売り場では魚屋、八百屋、肉屋などの商店が並び、まるで市場のような活気で朝からにぎわいを見せている。
ここは何屋…?
豊富なペットフードとともに傘や杖が売られている元金物店「マツバヤペットフード」。お客様の要望に応えているうちにこうなったそう(左)。ダイヤモンドビルにある老舗の茶屋店「たちばなや」では、静岡の銘茶とともに750種類もの国内外のたばこが販売されている(右)。
懐かしき昭和の味
コーヒーショップ海(フジサワ名店ビル・1階)
セパレート型のグラスで提供される「ダブルパフェ」。店内はほっと落ち着く空間で、線路沿いにあるため間近で電車が見られ、大人はもちろん子連れにも人気。店名は、湘南の「海」、そして人と人とが「会」って触れ合う場にしてほしいなどの思いを込めて、あえて「うみ」ではなく「かい」と読むようにしたそう。
味の古久家(ダイヤモンドビル・地下1階)
昭和22年創業、“藤沢のソウルフード”と言われ地元に愛される人気の町中華。甘めでやさしい味付けがどこか懐かしさを感じさせる。麺は自社の工場から直送される自家製麺。「ラーメンは庶民の食べ物」という初代社長の思いを受け継ぎ、令和の時代も良心的な価格で市民の胃袋と心を満たす。
編集後記
近年、あらゆる街で再開発が進んでいる。便利になる一方で、どこに行っても同じようなビルが立ち並び、テナントも同じようなチェーン店ばかり。その街ならではの個性や魅力が失われつつあることに少し寂寥感を覚える。今回取材したフジサワ名店ビルは、まさにローカリティを体現したような場所で、ここでしか味わえない、一つのビル内に時代の異なる店が地層のように堆積した実に興味深いビルだった。またひとつ、昭和の名遺産がなくなってしまうのはとても惜しいが、この名店ビルならではの良さが次世代にも受け継がれ、また藤沢の新たなランドマークに生まれ変わることを期待したい。