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おさんぽ通信

    第10回 よみうりランド~香林寺を歩こう!

    2005/09/30

    1. よみうりランドの大観覧車
    2. 中村正義の美術館
    3. とんとん窯の毅義ギャラリー
    4. 細山神明社
    5. 高台の遊歩道

    6. 細山郷土資料館
    7. 香林寺
    8. 五重塔
    9. 進藤豆腐店

    おさんぽ記

    よみうりランドの大観覧(1)の大きさに圧倒され、何度も振り返りながら歩き出します。通りには真新しい住宅が並び、遊具が散らばる公園もできたばかりのよう。「ここ1年ぐらいで、ばーっと造られたのよ」と、孫といっしょに遊びにきていたおばあちゃん。どこかで工事をしている音が聞こえてきます。

    通りを左に曲がると、急な坂道。竹林を横目に下り、見えてきたのは青々とした芝生の庭。門に中村正義の美術館(2)と書いてありました。革新的な創作に取り組み、独自の画風を築きあげた中村正義は大正13年(1924)愛知県豊橋市に生まれ、昭和36年(1961)細山へ移住。昭和52年(1977)肺ガンで亡くなるまで、この自宅兼アトリエから作品を発表し続けました。

    「転居してきたのは創作に専念するためです」と話してくれたのは、館長の中村のりこさん。「家のまわりは雑木林と畑だらけでしたが、今ではずいぶん緑が少なくなりましたね。それでも『これだけ緑があるのは珍しい』といわれますよ」。展示室からも眺められる庭は、お弁当を広げる人もいるというほど、だれもがくつろげる空間。そんな好環境に囲まれ、作品をゆっくり鑑賞します。とんとん窯の毅義ギャラリー(3)でも陶器1つ1つにのんびりふれて、さぁ、再び出発。

     畑の向こうには家々が連なる丘がいくえにも見えます。坂をどんどん下り、よみうりランドへの道に出て、少し下ったところを右。こちらも新興住宅街へと変貌中。ブルドーザーの音、トントントン!という金づちの音がこだましています。しかし、道をぐるりとまわりこんだ先の「細山自治会館」が建つあたりは、すでに土地に馴染んだ感のある住宅地。細山神明社(4)の鬱蒼とした境内も現れます。

    この鎮守の社は鎌倉幕府が開かれた1192年頃の創立。縁起を読むと、「村人たちが社殿を東の方角へ向けて建てたところ、不思議なことに次の朝には西を向いている。東向きに直しても、また西向きに。ある夜、神様から『細山村の東端に建つ社が東を向いていては、大切なこの村を守ることができない』とお告げがあり、西向きのまま鎮守された」とありました。一般の神社では坂や階段を上って社殿に至りますが、ここでは階段を下って。このことにより「逆大門」と呼ばれているそうです。

    葉っぱをサラサラと揺らす風を感じつつ、高台の遊歩道(5)を歩きます。終点の階段上に立つと、目の前に五重塔が飛び込んできました。絵はがきのような美しさに、しばしうっとり。あのそばへ行ってみようと長い階段を一気に下ります。

    「このへんはぜんぶ田んぼだったの。ホタルがキラキラ飛んで、カエルがガーガー鳴いていてね」と、植木いじりをしていたおばあちゃん。「昭和30〜40年代ぐらいだったかしら。まわりの山の土を運んできて田んぼを埋めてね、それで住宅地にしたのよ」。この地で使われてきた農耕具や生活道具は、細山郷土資料館(6)に展示されているという話。かつての細山のさまざまな風景が見られるだろうと行ってみたら、あいにく休館日でした(10時〜17時 月・金休 入館無料)。

    資料館から香林寺(7)まで、坂と階段を上ります。少々息をきらしながら山門をくぐり抜けた境内では、ししおどしが時折カーンと高い音を響かせていました。本堂をお参りした後、三十三観音、鐘楼、三百観音をまわりながら奥へ進めば、いつしか五重塔(8)が視界いっぱいに。ふと気づくと、遠方にはよみうりランドの大観覧車がありました。丘の上から細山を見下ろす2つの建物。そのあいだを今回はおさんぽしてきたわけです。

    帰りがけ、1軒の豆腐店の前を通りました。大豆のあまい香りに鼻の奥をくすぐられ、おもわずお土産に買った進藤豆腐店(9)の寄せ豆腐。夕食時、ひと口食べると、その香りは口の中にも広がり、濃厚なあまみがじ〜んわり。あまりにおいしくて、再度、細山へ訪れることを即決。だって、今回見られなかった細山郷土資料館、それに、中村正義の美術館の春の企画展も見たいですから。

    おさんぽクローズアップ!!

    「中村正義の美術館」

    昭和63年(1988)、自宅を美術館としてオープン。春と秋にそれぞれ催される企画展の期間中のみ開館。
    平成17年(2005)11月27日(日)までの秋の開館では、『おそれ展』を開催。中村正義が亡くなる3年前の昭和49年(1974)にスポットをあて、その時期に創作した作品を展示しています。 落ち着いた環境のため、2〜3時間かけてじっくり鑑賞する人も多く、また、春・秋の企画展ごとに必ず訪れるリピーターも。来春の開館は3月3日〜5月28日『花展』。 写真は、『おそれ展』展示作品の「何処へいく」(1974年)。水俣病を主題とした代表作。


    ■ 044-953-4936
    ■ 川崎市麻生区細山7-2-8
    ■ 春の開館3・4・5月 秋の開館9・10・11月
    ■ 金・土・日・祝の11時〜17時開館
    ■ 夏・冬休
    ■ 一般500円、学生300円、小中生200円、65歳以上300円

    「香林寺」

    大永5年(1525)開創の臨済宗建長寺派の寺。十一面観世音菩薩を本尊としています。 本堂の裏手の通路沿いでは三十三観音と三百観音が迎えてくれ、その慈悲深い観音像の表情に心がいつしか洗われる思いがします。
    昭和62年(1987)に建立された高さ30メートルの五重塔は、川崎の新名所。毎年春分の日には「香林寺五重塔祭り」を開催。五重塔より守護札が散布され、地域の人々はもちろん遠方からも多くの参拝客が訪れます。


    ■ 044-966-5450
    ■ 麻生区細山3-9-1

    ※ 平成17年(2005)9月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
    取材・文/森田奈央 

    森田奈央

    日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。