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おさんぽ通信

    第22回 百合ヶ丘駅~高石~細山を歩こう!

    2006/09/01
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    1. 百合ヶ丘駅
    2. 畜霊碑
    3. アトリエ
    4. 彼岸花
    5. 法雲寺

    6. 潮音寺
    7. 山田土筆細山美術館
    8. 細山郷土資料館
    9. 高石神社

    おさんぽ記

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    秋晴れのすがすがしい青空の下、百合ヶ丘駅(1)北口を出発。空の色と同じ青のペンキで塗られた百合ヶ丘歩道橋を渡って、世田谷通りの向こう側へ。この歩道橋、幅がせまいせいか、渓谷にかかる吊り橋を渡っているような気分に、少々なります。

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    階段を下りて彼岸花が咲く路地に入ると、かたわらに石仏。彫刻の表面が削られ、長年風雨に耐えてきた風格を漂わせています。路地を左へ曲がって進んだ先で、今度は畜霊碑(2)と書かれた石碑。「勝式号 乗馬 昭和二十六年八月十日行年十三才」という字が刻まれ、そばには馬のひづめを保護する蹄鉄がいくつも。馬のお墓のようですが……?

    住宅街へのなだらかな坂を上り始めて、青果店の日よけの上に懐かしい公衆電話の看板が残されているのに気づきます。少し行った左手には、何やら戸口が美しい建物。ここは絵画、デザイン、映像、写真など、「ものづくり」をしている人々が集まったクリエイティブ集団「ebc」さんのアトリエ(3)。単なる作業場ではなく、だれもが気軽に遊びに寄れる地域の交流の場をめざして、現在、毎週金曜にカフェ「浮空(-fuku-)」をプレオープン中です。

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    路地があっちこっちに伸びています。どちらへ行こうか迷っているうち、どこからかオルガンの音が聞こえてきました。童謡のやさしい音色につられて着いたのは保育園。園児たちが園庭で歌ったり踊ったり、とっても楽しそう。玄関には「いねみちゃん」「まもるくん」の名札をつけた案山子がちょこんちょこん。実りの秋を迎えて出番を待っているように見えます。

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    「車両行き止まり」の表示に、あれ? 通り抜けできない? と不安になりつつも進んだ道は、住宅のあいだをぬう階段となって上方へ。息を切らしながら上り、どこまでも連なる家々を見晴らします。空気を胸いっぱいに吸い込んで空を仰ぐと、いくえにも走るすじ雲。う〜ん、気持ちいい! 色づき始めた栗がごろごろ転がる畑の道を行き、斜面いっぱいに彼岸花(4)が咲く階段を発見します。

    再び住宅街を歩き出して目指したのは、木々に囲まれた一角。青銅葺きの屋根が見え隠れし、どうやらお寺のようです。道に沿っていつのまにか続いていた瓦屋根と白壁の塀の終点には庚申塔と、またしても彼岸花。そして、その先に高石山法雲寺(5)の立派な門が建っていました。

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    お寺の敷地わきの細い道はクルマが通れない遊歩道。背丈以上に茂った緑が風に揺られてさわさわさわさわ。おさんぽにぴったりのコースだなぁとほくそ笑んでいたら、2本の大きなイチョウの木の下に赤い前掛けのお地蔵さん。向かいに萬松山潮音寺(6)と書かれたお寺がありました。潮音寺とはなんてきれいな名前。もちろん潮の音は聞こえませんが、庭の池に流れ落ちる水の清らかな音が門の外まで響き渡っています。

    「昭和の初めころ、法雲寺のまわりでは草競馬が行われていたんだよ」とは、山田土筆細山美術館(7)で出迎えてくれた日本画家の山田土筆先生。「このへんはみんな農家でね、農耕馬をどこの家も飼っていたんだ。それで農作業のあいまに自分のところの馬を使って、草競馬をした。大人も子どもも見に行ってにぎやかだったよ。わたあめとか大福まんじゅうとか屋台も出てね」。

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    そういえば、百合ヶ丘駅前で見た畜霊碑。あれはやっぱり馬のお墓……。「馬が死ぬとね、埋めて碑を建てたんだ。このまわりにはいくつも残っているよ」。知らなかった地域の歴史に、ふつふつと興味が湧き起こります。「細山には運動場があってね、神宮で行われる大会に出場するほど運動が盛んに行われていた。青年団はその資金を稼ぐために、金程万葉園近くの山で行楽客にウサギ追いをさせたり、栗山がいっぱいあったから栗拾いをさせたり、松茸狩りも以前はできたんだよ」。


     山田先生の話がおもしろくて、すっかり長居。「地域にはいろんな話が残っている。どんどん知られなくなっちゃっているけど、調べていけばおもしろいよね」。そうですよね! と大きくうなづき、細山郷土資料館(8)へ。以前、たまたま休館日に訪れたことがありましたが、今日は開館中。細山が「モデル農村」として発展したこと、この地で創業された農機具会社「細王舎」が全国、海外まで市場がおよんだことを知ったり、人々の暮らしぶりがわかる生活道具を見たり、時間はあっという間に過ぎていきます。

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    急坂を上って高石神社(9)に到着。境内からは高石や細山周辺を一望できます。細山郷土資料館で見た「昭和の初め頃の細山・金程」のジオラマが頭のなかに浮かび上がり、かつてあった地域のさまざまな風景を思い描くことしばし。空が少しずつ赤く染まっていったのでした。

    おさんぽクローズアップ!!

    「山田土筆細山美術館」

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    第1展示室は四季折々の細山の表情をとらえた作品群、第2展示室は旧作・新作のスケッチや収蔵品の数々などを展示。
    制作中の作品やアトリエも公開され、日本画がどのように完成されていくのかを見ることもできます。
    1000坪の敷地に広がる緑豊かな庭を眺めながらスケッチをのんびり鑑賞したり、山田先生の興味深いお話を聞いたりするのもおすすめです。 写真はアトリエで筆を握る山田土筆先生。


    ■ 044-966-4083
    ■ 川崎市麻生区千代ヶ丘6-3-7
    ■ 10時〜16時
    ■ 土・日曜・祝日のみ開館(1月、8月、12月は休館)
    ※休館日に見学希望の場合は前もって可否を問い合わせること
    ■ 入館無料

     ※ 平成18年(2006)9月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
    取材・文/森田奈央 

    森田奈央

    日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。