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おさんぽ通信

    第32回 京王よみうりランド駅~よみうりランドを歩こう!

    2007/07/01
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    1. 京王よみうりランド駅
    2. ブドウ畑
    3. 妙覚寺
    4. ありがた山

    5. 威光寺
    6. 日本山妙法寺
    7. ランド坂からの眺め
    8. よみうりランド

    おさんぽ記

    東京都稲城市に位置する京王よみうりランド駅(1)には、よみうりランドへ向かう人たち。徒歩1分にある「よみうりランド行きゴンドラ乗り場」へ 楽しそうに列を作ります。ゴンドラ乗り場への階段を上る手前の案内看板に「遊歩道入口 遊園地入口まで約25分」という文字。“遊歩道”とは気になりますが、それはまたのお楽しみとしましょう。

    駅前からまっすぐに伸びる道のつきあたりにブドウ畑(2)。一房一房が小さな白い袋で包まれ、熟期を今か今かと待ちかまえているようです。この 周辺ではナシ畑も見られ、道路脇の直売所に8月中旬からもぎたてのブドウやナシが並び始めます。今年もいよいよその季節が巡ってきたなあと空を見上げる と、ゴンドラが結構なスピードで進んで行くのでした。

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    自動車やトラックが行き交う道路の向こう側に一軒のお寺を見つけます。室町時代に開山した妙覚寺(3)です。現住職は20代目で、建物は寛政8年 (1796)に再建。境内は緑が美しく、とくに毎年3月10日頃に咲く紅梅や白梅は見事で、“梅の寺”と称されることも。稲城市指定文化財の享徳3年 (1454)建立の板碑や嘉永7年(1845)に建てられた筆塚も残され、趣が感じられます。

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    「目に見えないものほど大切なものがあります。土の中の木の根を痛めつければ木は枯れる、栄養を与えれば枝葉が繁ります」とお話してくださったのは、ここ で生まれ育ったという妙覚寺の奥さん。「お寺の横の坂を上ったところに何千体もの無縁仏が祀られています。昭和の初め頃、東京の小石川界隈から信仰の厚い 人々によって一体一体運ばれてきたものです」。

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    人々は無縁仏をかわいそうに思い、供養してあげたいという一心だったと言います。「仏さまを供養し、お互いに『ありがたい』と感謝する気持ちがあふれてい たのでしょう」。その場所は、ありがた山(4)と呼ばれるようになりました。奥さんはさらに続けます。「戦争などで尊い命を落とした人々がいて、そういう 人たちのうえに今日の日本がありますよね。そういったことに対して、ありがたいと思う気持ちを忘れてはいけない。目に見えないものほど大切に、先祖を粗末 にしては私たちの生活も繁栄していかない思うんですよ」。

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    坂を下って、先ほどの自動車とトラックの道路へ。八雲神社を過ぎて、左手奥に見えてきたのは「新東京百景 弁天洞窟 威光寺(5)の看板。新東京百景と は? と境内へ入って行くと、弁天洞窟の中を拝観できるとのこと。明治の初め、弁天さまを祀るために1500年前の変形横穴式古墳をもとに掘って完成させ た洞窟で、大黒天、毘沙門天なども含めた23体の石仏が祀られているほか、お金を洗うとご利益があると言われる「金洗いの井戸」もあります。

    シオカラトンボが飛び交う池の橋を渡り、洞窟の入口に立つ案内図の前でしばし。中は真っ暗のようなので、道順を確認します。洞窟の隣の敷地でなにかの工事をしていた人が「ロウソクの灯を頼りに行くのが、雰囲気があっていいよ。怖くないから、ゆっくり行っておいで」。

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    じつは少し尻込みをしていたのですが、よしと意を決して洞窟内へ一歩。とたんにひんやりとした空気に包まれ、不思議と厳かな気分になります。要所要所でロ ウソクの灯にぼんやりと浮かび上がる数々の石仏は皆、神々しい表情で、優しく見守ってくれているよう。……とは言っても、いつのまにか一周して、セミの声 や工事音が耳に届くようになり、洞窟の入口はもうすぐだとわかると、ほっとしたのでした。

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    さてさて、再び戻った道路は上り坂となり、丘のてっぺんにはよみうりランドの観覧車。ヘアピンカーブのコーナーに「日本山妙法寺(6)」と書かれた看板を 見つけます。ここにお寺が? と緑に囲まれた道を行くこと5分。現れた階段を上って着いた境内には、よく見るお寺とはちがった建築様式の本堂と御仏舎利 塔。池には大きな葉のあいだからピンクのつぼみが顔をのぞかせる大賀ハスが甘い香りを漂わせています。

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    「大賀ハスは7月からお盆の頃まで、午前中に花を開かせます」とお寺の人。「春はしだれ桜や山桜がきれいで、地元の方々の散歩コースになっています。道路 から入ったところにあるので、初めての方はこんなきれいなお寺があったんだって驚かれますね」。はい、私もたいへん驚かさせていただきました。

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    ヘアピンカーブを上りきり、ランド坂からの眺め(7)を観賞。ここまでよく上ってきたなあ! と深呼吸し、この道のりで訪れたお寺の風景を思い返します。 そして、よみうりランド(8)のバスロータリーに着いて観覧車を見上げたとき、今日も無事におさんぽできたことに感謝したのでした。

    おさんぽクローズアップ!!

    「威光寺」

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    『新編武蔵風土記稿』によると、延宝3年(1675)より穴澤天神社の別当寺として存在。真言宗豊山派で、稲城市坂浜の高勝寺の末寺でもあります。

    現在の本堂は明治3年(1870)に改築されたもの。境内には稲城市で2番目に古い貞享元年(1684)の庚申塔があり、一般とは異なる六角柱に笠をつけた石幢形をしているため、貴重とされています。市指定文化財。

    弁天洞窟は全長65メートル、広さ660平方メートル。洞窟内には池もあり、壁からは水が染み出ています。水滴のつぶつぶがロウソクの灯りに反射して輝くのが印象的です。

    ■稲城市矢野口2411

    弁天洞窟拝観

    ■ 9:00〜16:00

    ■ 火曜休

    ■ 拝観料 大人300円、小人200円

         ※ 平成19年(2007)7月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。

    取材・文/森田奈央 

    森田奈央

    日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。