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おさんぽ通信

    第13回 柿生駅~麻生不動院を歩こう!

    2005/12/17
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    1. 柿生駅
    2. 題目塔
    3. 柿生トンネル跡
    4. おっ越し山ふれあいの森
    5. 尾根道

    6. 月讀神社
    7. 麻生不動院
    8. 常安寺
    9. 柿ワイン
    10. 柿最中

    おさんぽ記

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    小田急線柿生駅(1)の南口を出た柿生中央商店街では、「柿と寺のまち 柿生」のフラッグのほかにも、お店のひさしや歯科と大きく書かれた看板など、オレンジ色に染められたものがやけに目につきます。「このへんはあたり一面、柿畑だったね。今でも庭に柿の木がある家が多いよ」。街の人が教えてくれたとおり、塀の上から突き出ている枝にはオレンジ色の柿の実。ここは確かに、オレンジ色の「柿のまち」のようです。

    商店街の途中で見つけたのは題目塔(2)。「麻生、片平、三輪などでは現在も池上本門寺にお召物を奉納する講を行っている」と説明書きされています。柿生の名産「禅寺丸柿」はかつて、10月に行われる池上本門寺のお会式で「江戸の水菓子」としてもてはやされ、その人気は近年まで100軒を超す露店が並ぶほどだったそうです。
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    「柿の頂部に黒い線が渦巻き状にたくさん出ているのが甘くておいしいんだ。子どものころからどれが甘い、渋いって見分けては、もいで食べていたんだよ」。ちょっとだけ寄り道した麻生区役所柿生連絡所の人が言います。「禅寺丸柿は小ぶりで、枝に鈴なりになるのが特徴。大ぶりで、ヘタのまわりがふくらんでいるのは渋い。今でも時期には農家の直売所や駅前の青果店で売られているよ。ほかではあまり見られなくなったけどね」。

    昭和40年代からほかの品種に人気が移り、それと同時に禅寺丸の柿畑は宅地開発によって少なくなっていきました。昭和20年代、下駄の鼻緒が切れやすいために「下駄切り坂」と呼ばれた急坂に開通した柿生トンネルは、昭和53年(1978)、周辺の住宅化が進んで交通量が増えたことをひとつの理由として切り通しとなり、今そこは柿生トンネル跡(3)と言われています。

    切り通しの右斜面に階段が伸びていました。先ほどから人が何人か行き来しているので、こっちへ行ってみようかな?と、階段の上へ。 おっ越し山ふれあいの森(4)の看板、そして、「○日9:30〜落ち葉かき、下草刈り、腐葉土置き場の修理」などと作業予定が書かれた紙が貼られています。落ち葉がどこまでも敷かれた遊歩道では、穏やかな風に陽光が揺れていました。

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    気がつけば、遊歩道は1本の尾根道(5)。散歩の夫婦や買い物帰りの女性、学校帰りの学生などにすれ違います。「前後にだれも歩いていないときはちょっと怖いけど、物事を考えるにはとってもいい道ね」。右へ行くと浄慶寺、まっすぐ行くと月讀神社と道案内してくれた女性と話します。途中の竹林の道は、地中を這った竹の根の力でアスファルトが盛り上がってひび割れ、まるで地震が起こったよう。なんと自然の力は未知数にあふれているのでしょう。

    左手に麻生台団地を眺めた後、住宅街を行きます。つきあたりに月讀神社(6)の境内が見えてきました。天文3年(1534)、領主小島佐渡守が天下泰平、五穀豊穣を祈願して創建。大正期に合祀して麻生神社となるも、全国的にも稀な社号であるため、再び月讀神社と称されることになったそうです。祭神は「月夜見尊(つきよみのみこと)」とあるのを見て、美しい響きだなぁとため息をつきます。

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    「このへんは神社仏閣が多いから、それらをお参りしてまわっているの。修行ってわけじゃないけど、健康のために2日おきに歩いているんだ」と境内でいっしょになったおじさん。「鳥居の先を下って、左へ行くと麻生不動院だよ」。木々に覆われた薄暗い道を抜けると、木の根元に小さな祠を見つけます。なかは空っぽ。以前は何か祀られていたのでしょうか。

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    木賊不動とも言われ、火伏せの不動として親しまれている麻生不動院(7)は応永年間(1394〜1427)の創立。ダルマ市は明治の終わりごろから始められ、「関東の納めのダルマ市」と有名です。毎年400〜500軒の出店があり、約5万人の人出があるとのこと。真っ赤なダルマで埋めつくされる境内を思い描き、その賑やかさを想像します。

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    真福寺川の不動橋に立ち寄った後、もうひとつ、お寺を見つけました。永正12年(1515)に創建された常安寺(8)。領主小島佐渡守が屋敷の裏鬼門の守護神として建てたものです。お寺といえば、尾根道で浄慶寺への道を教えてもらったのを思い出しました。確か、浄慶寺は「柿生のあじさい寺」と知られるところ。柿生にはほんとうに神社仏閣が多いんだなぁと思いつつ、浄慶寺はあじさいの時期に来ようと楽しみにすることとします。

    さて、今回のお土産は、柿ワイン(9)と柿最中(10)。どちらも禅寺丸柿から作られた柿生ならではの名品。禅寺丸柿の木は今でも黒川、岡上、王禅寺などでよく見られるそうで、古きからの柿生の味を大切に伝えるワインと最中には、そのおいしさがぎゅぎゅっと濃縮されているのでしょう。

    おさんぽクローズアップ!!

    「鴨志田酒販」

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    麻生区や多摩区の酒店やお祭りなどで販売される「かわさき柿ワイン・禅寺丸」。柿生駅周辺で売っているのはこのお店だけです。
    柿特有の甘みがありながら、すっきりした飲み口が特徴で、食前酒としても食中酒としても好まれているという話。柿を醸造して作ったワインはめずらしいので、お土産にする人が多いそうです。


    ■044-988-0056
    ■ 川崎市麻生区上麻生6-32-28
    ■ 10時〜19時
    ■ 日休

    「大平屋」

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    柿生駅南口駅前。見るからにおいしそうなおにぎりや団子が店頭のショーケースに並び、人々が次々と買い求めていきます。店内にも手作りの和菓子が各種そろい、こちらもどれを選ぼうか迷うほど。
    お店の前でオレンジ色の人形が案内している柿最中「麻生 柿の里」は、パリッとした皮となめらかな柿あんが口のなかで溶け合う絶妙な味わい。柿羊かん「王禅寺の柿」も評判です。


    ■ 044-987-1270
    ■ 麻生区上麻生5-43-2
    ■ 9時〜20時
    ■ 水休

    ※ 平成17年(2005)12月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
    取材・文/森田奈央 

    森田奈央

    日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。