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おさんぽ通信

    第14回 生田駅~聖マリアンナ医科大学を歩こう!

    2006/01/01
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    1. 生田駅
    2. 春秋苑
    3. 桜並木
    4. たまごの自動販売機
    5. 大山道の道しるべとお地蔵さま

    6. 諏訪神社
    7. 梅畑
    8. 盛源寺
    9. マルグレーテ

    おさんぽ記

    明治初期、上菅生村と五反田村が合併した際、その語尾をとって名づけられた生田村。昭和2年(1927)の小田急線開通時には東生田駅と西生田駅が設けられ、後にそれぞれ生田駅と読売ランド前駅に改称されました。今回の出発点は生田駅(1)。南口を出たつきあたりに流れる五反田川、丘の上に建つ五反田神社の名前に、地名の由来が思い起こされます。

    「このあたりは田んぼだったんだよ」。南口のバスロータリーからゆるやかな坂を上り始めた交差点。そこに立っていた『川崎市宅地造成工事規制区域』の看板を見ていたら、通りがかりのおばあちゃんに声をかけられました。「30〜40年前ぐらいから造成されて、すっかり住宅地になっちゃったけどね、以前はホタルも飛んでいたの」。竹林がざらんざらんと揺れているのが見えます。「丘陵地は風が強いからね、屋敷林が残っているところがまだあるよ」。

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    コンビニエンスストアの角を右に曲がり、坂道をさらに上っていきます。マンションのとなりの緑地に、枝の先に小さな花芽をいっぱいにつけた木。やわらかそうな白い毛がはえて、まだ生まれて間もない様子。春に向けて、新しい自然の命が誕生し始めたんだなぁと、心がわくわくしてきました。

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    坂の途中で左に折れ、春秋苑(2)北門へ。ここからは今までより急勾配。息をきらしながら着いた丘の上は見わたす限りお墓が並び、その向こうには丘陵地を覆う家々がどこまでも続いていました。風に吹かれながら景色を眺めているうち、ふと目にとまったのは立派な梅の木。よく見ると、赤いつぼみがぷっくりとふくらんでいます。ここにも春の気配。足取りがますます軽やかになります。

    春秋苑の正門へまわり、苑内の坂を下って西門から出ると、中学校の校庭に沿って再び急勾配の坂。上ったり下ったりを繰り返して、桜並木(3)の通りに出ました。「こちらのつぼみはいかがなもの?」と、枝を背のびして見上げましたが、さすがに桜はまだまだ、ぎゅっ。下り坂で見つけたたまごの自動販売機(4)で売られていたもののなかには「さくらたまご」。桜のつぼみは固くても、殻を薄ピンク色に染めたたまごがありました。
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    さて、両側に畑が続く坂を下って行きます。左手にはこんもりとした屋敷林。竹林のなかへ雰囲気のよい小道が伸びているのが見えます。さきほどまでの整然とした住宅地の雰囲気とは変わり、のどかな田園風景。無人の野菜直売所にやわらかな日ざしが差しこんでいます。

    交通量の激しい通りに出ました。交差点のあちら側の角にたたずんでいるのは、大山道の道しるべとお地蔵さま(5)。「花が供えられて、大切にされているんだねぇ」とリュックサックのおじさん。「お地蔵さまがのっている台が雛壇になっているのがおもしろいね。この周辺には庚申塔も多いよ」。

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    その庚申塔を諏訪神社(6)の鳥居の前で発見。新しいお堂に守られて、お地蔵さまと同様、近隣の人々に大切にされているのがわかります。鳥居の下には「此方東京道」「此方長津田・大山道」と書かれた馬頭観音、参道には別の庚申塔も。諏訪神社は疫病避けと護石受授の言い伝えがある社。護石受授とは「無病息災を祈願する際に護石を持ち帰り、成就後は新しい石を1つ加えて返す習わし」と、置かれていた用紙にありました。

    平瀬川に沿って歩き、再び上り坂へ。雑木林がざざーざざーと音をたて、枯れ葉がからからからからと走っていきます。高台に並ぶ新興住宅地を過ぎると、少し下ったところに梅畑(7)。「2月中旬か下旬ぐらいには白い花がいっぱい咲いて、きれいですよ。6月に梅が実ると、近所の人たちが予約して買ってね、梅干しを漬けたりしているみたい」。買い物帰りのおばあちゃんと、「楽しみですねぇ」と梅畑を眺めます。

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    平瀬川を渡り、先ほどの“交通量の激しい通り”に出ると、またお地蔵さま。そして、盛源寺(8)には、またまた庚申塔。「江戸時代の寛文10年(1670)に建てられ、『武州橘郡菅生郷長沢村』の字が見られる」と書かれた看板を見ながら、人々の信仰心や地域の連帯感の強さを感じ、ほのぼのとした気持ちになります。

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    先ほどの梅畑まで戻り、聖マリアンナ医科大学の方へ向かいます。目の前に現れたのはベーカリーマルグレーテ(9)。デニッシュペストリーが並ぶかわいいお店です。デニッシュペストリーとはデンマークの代表的な菓子パン。パイのように、いくえにも丁寧に折りたたまれた生地の層が幸せな食感を呼びます。イチゴをトッピングしたデニッシュに、気分はすっかり春!春! 帰りのバスを待つ足下もいつもより寒さを感じませんでした。

    おさんぽクローズアップ!!

    「盛源寺」

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    天正年間(1573〜1592)に開山した曹洞宗の寺。
    境内の観音堂は準西国稲毛33所第10番札所とされているほか、武州稲毛七福神めぐりの弁財天と寿老人(写真)が祀られています。
    また、参道にある庚申塔は近世初期の特徴をよく伝える貴重なもので、川崎市の重要郷土資料に指定されています。
    庚申塔とは庚申信仰によって建立。江戸時代、体の中には三尸(さんし)という虫がいて、人が寝ている間にその人の善悪を天帝に報告し、それによって寿命が縮められると言われていました。そこで人々は60日に1度の庚申の夜、「庚申講」を催して眠らずに過ごし、それを数年続けると庚申塔を建てました。


    ■川崎市多摩区長沢1-29

    「ベーカリーマルグレーテ」

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    自家農園でとれた新鮮素材や自家製の食材を使用するなど、こだわりがいっぱいのデニッシュ・ベーカリー。
    リンゴ、イチゴ、オレンジ、ブラックベリー、サツマイモなどが登場する季節限定のペストリーはとくに評判で、そのときどきの旬の味を存分に楽しませてくれます。
    イギリスパン、あんパン、クリームパン、また、紅茶ケーキ、アーモンドクッキーなども人気が高く、何を食べようか迷ってしまうでしょう。


    ■ 044-977-1071
    ■ 多摩区長沢2-20-30
    ■ 8時〜19時
    ■ 日祝・第1・3土休

    ※ 平成17年(2006)1月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
    取材・文/森田奈央 

    森田奈央

    日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。