連載メニュー

おさんぽ通信

    第23回 柿生駅~五月台駅を歩こう!

    2006/10/01
    • big-tmp-unit-367083551

    1. 柿生駅
    2. おむすびカフェ
    3. 森への入口
    4. 草はら
    5. 修廣寺

    6. 善正寺
    7. 片平公園
    8. 葉積緑地
    9. 五月台駅

    おさんぽ記

    big-tmp-unit-2003307282

    秋の冷たい雨がしとしとと明け方まで降っていた日、太陽がのぼるにつれて雲がきれぎれになり、柿生駅(1)北口に降り立ったころには青空が広がっていました。駅前にはスーパーマーケットの看板が3軒、あちらにこちらに見えて、買いものに便利そうなところ。麻生川の流れに目を移すと、赤や黄色の落ち葉。流れていくもの、川底の石に引っかかっているもの、キャンバスに絵の具を散らしたような鮮やかさです。

    柿生新橋を渡って、世田谷通りに出た交差点の角に、1軒の小さなカフェがありました。おむすびマークの上に「さんぽ」と書かれていて、“おさんぽ通信”としてはすぐさま入口のドアに手をかけたのでした。こちらはおむすびカフェ さんぽ(2)。主婦3人で3年前にオープンし、お弁当の販売もしているとのこと。そこで閃いた、今日の計画。こんなに天気がよくなったんだもの、「おむすび弁当」を作ってもらって、どこかで食べよう!

    big-tmp-unit-2041552436

    柿生小学校の向かいに「夏蒐山修廣寺(なつかりさんしゅこうじ)」の看板。「徒歩10分 この先、車では行けません」とあります。むむっ、おむすびを食べるのにぴったりのところへ行けるかな? と矢印の方へ。玄関先に飾られた菊の花が見事な家の前を左へ折れると、道が細くなり、上り階段が見えてきました。階段は少しずつくねくねとカーブしながら、木々のなかへ入っていきます。こんなにまぶしい日射しが降りそそいでいるというのに、階段の奥は真っ暗。どうしよう? と一瞬、迷いますが、手元に下げたお弁当の袋から海苔の香り。よしっと、森への入口(3)へ進みました。

    big-tmp-unit-1550614180

    目が慣れてきたら、森の中はそんなに暗いわけではありません。木々のあいだをすり抜けて入ってくる光がむしろきらきらと輝いて、スポットライトのようにところどころを照らし出しています。階段はいつしか平坦な道へと変わり、両側に竹林が広がると、その根の盛り上がりによってアスファルトはでこぼこになっているのでした。

    big-tmp-unit-1031932168

    あちらから1人のおじいさんが歩いてきました。すれちがう際、「こんにちは」と掛けた声に対して「はい、こんにちは」。こんなちょっとしたことで、「ここはとっても気持ちがいいさんぽ道だなぁ」と、すっかり嬉しくなってしまいます。「あ、唐揚げのにおい」。お弁当が再び鼻をくすぐり、ますますにんまり。ピィーピィーと鳥の鳴き声を聞きながら、左手に並ぶお墓の前を過ぎたころ、ゆるやかな階段の先に、草はら(4)が広がっているのに気がつきました。

    tmp-unit-439689307

    森を抜けたところに草はらがあるなんて、なにかの物語か夢のなかにいるみたい……と、しばし立ちつくしながら見渡します。薄紫の花のじゅうたんから立ちのぼる、草葉が蒸された微かなにおい。ゆっくりと深呼吸して、ようやく歩き始めます。下り階段の先に建物が見えてきました。ずいぶん大きいなと見ると、それは修廣寺(5)の仁王門。境内には曹洞宗の開祖である道元禅師が中国へ修行に渡った際の逸話による像や大きな太鼓が置いてあり、掲示板には「○/○(土)夏蒐太鼓出演 イベント会場にて」という案内書きを見つけます。

    big-tmp-unit-2000653155

    お寺を後にして、左に続く急坂へ。明け方までの雨で道が乾いていなく、ずるっと滑るので、ぐっぐっと足に力を入れて上っていきます。墓地の途中にひとかたまりの石仏群。傾いたり崩れかけたりしているものもあり、刻まれた文字も読みにくくなっています。なんとかわかったのは「元禄14巳年七月十六日」という字だけでした。

    big-tmp-unit-1855597329

    どんどん上って道なりに進んでいくと、目の前が開けました。前方には深緑色の丘が連なり、その手前には造成された宅地が続いています。階段の下は新興住宅地。真新しい家々はどれも素敵で、見て歩くだけでも楽しいものです。竹垣の小道を下り、片平川をあちらに眺める広い通りを少し行った右手には善正寺(6)がありました。

     さて、快調に歩を進めてきて、そろそろ「待ってました!」と、おむすびにぱくつきたいところ。公園でもないかなあと地図を見つけて探すと、片平公園と葉積緑地を発見。さっそく片平公園(7)へ行ってみます。ここでは野球のグラウンドを眺めながらのお弁当が気持ちよさそう。が、しかし、すぐそばの砂場では小さい子どもたちが立派なお山を造成中。うーん、今ここでお弁当を広げたら、注目の的になってしまうかもしれません。

    big-tmp-unit-232979554

    それならばと葉積緑地(8)へ。こんもりとした緑の山がどどーと吹く風によって、輪を描きながらうねっています。黄色く色づいた葉はさわさわさわと揺れて、なかにはそのまま落ち葉になるものも。その散り落ちていく姿が美しく、ベンチで見とれながら、いよいよおむすび弁当。おむすびの具はしゃけとこんぶ。おかずは鳥の唐揚げとたまご焼きときんぴら。んーっ、おいしいっ!

    住宅街を通って五月台駅(9)まで。見ると駅前を飾る木々も色づき始めた様子。これから秋が深まってくると、葉積緑地も色彩豊かに染まることでしょう。またお弁当持って、出かけたいな。ひと雨ごとに鮮やかさを増す紅葉のなかで食べるのは、目にもお腹にも、なによりのごちそうです。

    おさんぽクローズアップ!!

    「おむすびカフェ さんぽ」

    big-tmp-unit-1651438104

    おむすびの具の種類は20種類以上。肉そぼろ、塩わかめ、ちりめん山椒、きゃらぶき、えびちりめんといった変わりどころも揃えています。
    お米は秋田県仙北市西木町の知り合いの農家から直送してもらっているあきたこまちを使用。注文を受けてから、ひとつひとつ手塩でにぎり、おかずもすべてていねいに作ったおふくろの味。
    店内では各種ドリンクほか、おむすびセット、うどんセット、手作りケーキセットも味わえます。
    さんぽという店名は、さんぽがてら気軽に寄ってほしいということで命名したそうです。


    ■ 044-986-2621
    ■ 川崎市麻生区片平3-1-3
    ■ 9時〜17時
    ■ 月曜休

    ※ 平成18年(2006)10月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
    取材・文/森田奈央 

    森田奈央

    日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。