第75回　かげろう（和歌山県西牟婁郡）

　手に取るとふわっと羽のように軽い。口に入れるとサクッとした瞬間に溶けてしまう。この食感が浜辺に漂う陽炎の儚さを思わせることから名がついた。
　創業は1933年。当初は柚子もなかの製造から始まり、先代の子の誕生を機に、小さな子どもでも食べられるものを、との想いから生まれたという。その願い通り、50年以上にわたり老若男女を問わず多くの人に愛され、今や和歌山を代表する銘菓となった。
　新鮮な卵をたっぷり使った柔らかな生地でバタークリームをはさんでいる。工場生産ではあるが、今なお要となるのが職人の技と経験だ。その日の気温や湿度に応じて材料の配合や練り具合を調整し、ふんわりと焼き上げる。生地もクリームも甘すぎず、どこか懐かしい。素朴で食べやすいので日常のお茶請けから贈答品まで用途は幅広い。本店でしか味わえない、生クリームをはさんだ「生かげろう」も好評という。「お菓子は人を笑顔にする」がモットー。やさしいおいしさに南紀白浜の情景が重なった。